妖アパ・妖怪アパートの幽雅な日常 ファンサイト

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ダテに何百年生きてない。佐藤さんの重みのある言葉

アニメでは第5回、文庫版では第1巻 第6話で、主人公夕士を泣かせる深い深いセリフを語ってくれた "妖怪" 佐藤さんの名言をお届け。

龍さんではまった妖アパ沼にこれでみごとに落ちました。

 

人は時代とともに変わるもんだ。変わっていいんだよ。おいらだって変わってきてるさ。でなきゃ会社の中でやっていけない。確かに昔に比べれば、甘ったれた人間が増えてきてる。時代は確実に翳ってきてる。でも、それで終わりじゃないんだよ、夕士くん。 おいらたちは長生きする。だから、人間とは時間のスタンスが違う。おいらたちは、何事も長い目で見るんだ。人間のことも長ーーーい目で見てるよ。今わ悪くても、いい時代は必ずくる。すべての歴史はその繰り返しだ。そして次の時代をつくるのは、君たちのような若い子なんだ。 悪い部分もすべては君たちの一部だ。切り捨てることはできないよ。だからそれはそれとして置いといて、君の目は未来を見るんだ、夕士くん。なりたい自分をね。行きたい場所、やりたいこと、夢を見る人間には、無限の可能性があるんだよ。人間がおいらたちと違うのは、そこ。夢を描き、そこへ向かって突き進んでゆくこと。だから人間は素晴らしい。たとえ、そこに欲深さの罪はあっても、未来へ未来へと進化するのが人間だ。良いことと悪いことを繰り返しながら

by 佐藤さん 「ただいまと言える場所」(第1巻)

 

佐藤さんって?

佐藤さんは、妖怪アパートの住人の一人。

入社以来、勤続20年。大手化粧品会社「ソワール化粧品」の経理課長。女子社員に人気ナンバーワンのナイスミドル。”銀髪の佐藤”。と自称する、実は人ではなく妖怪。

ちゃんと自己設定を作り上げていて、アルバムも完備。お見合い結婚した”あんまり美人じゃない” 妻と子の写真を定期入れに入れていたりするところまでぬかりない。

人間に生まれたかったのに妖怪に生まれてしまったので、その真似ごとがしたくて「普通」の人間として生きている。これを何十年も繰り返している。

妖怪とバレないように会社では目立たないようにしている、なのに女子社員人気ナンバーワンなのか?ところどころ不思議な人(いや妖怪)。

白米が大好き。お酒ももちろん大好き。

妖怪アパートの住人の中では、さほど目立つキャラではないけど、夕士が悩みやもやもやをアパートの食堂や居間で大人たちに話しているときにこっそり鋭いことを言ったりする。

アニメでは遊佐浩二さんがCVを務めているのだけど、なんかもうしっくりきすぎて怖いの。

 

普通ってなに?

毎日通勤し、小料理屋でおでんに焼き鳥、だし巻きやらをつまみに酒を飲む妖怪、佐藤さん。 その外見はとても「普通」で、仕事ぶりもそこそこなら、奥さんも”あんまり美人じゃない”ときている。高校はテニス部でW代の経営学部卒業、とその「普通」ぶりは徹底している。

あまり目立ったりすると妖怪であることがバレてめんどくさいことになるのを避けるっていうのもある一方で、これが”普通に人間として生まれ、生きたかった”、という佐藤さんの理想なのだろうという人生を歩んでいる。

だけど中身は妖怪なの。

外見はとてもとても普通だけど、中身はとてもとても普通じゃない。

この佐藤さん、普通といっていいのか、そうでないのか?

そもそも”普通”ってなんなんだろう?

辞書で普通を引いてみるとこんな感じ。

ふつう【普通】 一 ( 名 ・形動 ) [文] ナリ ① いつでもどこにでもあって、めずらしくない・こと(さま)。 「日本に-の鳥」 ② ほかとくらべて特に変わらない・こと(さま)。 「ごく-の家庭に育つ」 「 -ならもう卒業している」 ③ 特別ではなく、一般的である・こと(さま)。 「 -高校」 ▽↔ 特殊 二 ( 副 ) ① その事柄が多くの事例にあてはまるさま。一般に。 「日本では入学式は-四月だ」 ② いつもではないが、ほとんどそうであるさま。たいてい。 「朝は-七時に起きる」

大辞林 第三版

 

よく見かける、特別じゃない、他と比べて突出したものがない、っていうことだろう。 うっかりすると埋没して見過ごしてしまいそう、そんなところ?

 

その”普通”に佐藤さんは憧れていた。 佐藤さんが会社での仕事ぶりを”そこそこ”にしているあたり、あえて埋没を狙ってる。 意図的な「普通」、作り上げた「普通」。

私たちは「普通じゃヤダ」としばしば思う。十人並みなんて嫌だ、私はそんなもんじゃない。差別化したい。人と違ったものが欲しい……。 この正反対のことを佐藤さんはしている。いかに普通にするか、に腐心して。

 

普通の人は普通じゃない、に憧れる。 普通じゃない人は逆に普通に憧れる。

 

ないものねだりというか、自分じゃないものになりたいというか……。 成長意欲はいいのだけど、自分じゃないものになりたいのは、ちょっと違う気がする。

 

そもそも、普通かどうかを考えることそのものも意味がないのかも。

だって、世の中に同じ人は一人としていないのだから。 一人一人、違うのだから。 共通点を抽出して、グルーピングして、その中に収まって安心するのって違うんじゃないの?

 

変わらなきゃ、より、変わっていい

成長意欲がある人は「変わりたい、変わらなきゃ」とよく言う。 ここでもこんなことを書いたりしているので、私だって「変わりたい願望」はあるほうなんだろう。

http://www.xn--cck0e347k.com/2017/12/09/kawaritai-kawarenai-oshiete-ryu-san/

 

だけど、よく観察してみるといい。 私たちは毎日変わっている。

髪の毛が伸び、爪が伸び、皮膚が下から押し上げられるという物理的な変化だけでなく、 昨日信じていたことを今日は信じられなかったり、 昨日まで食べられなかったピーマンが今日は食べられるようになってたり。 そんな小さなことでさえ変化してる。

 

なんにも変わらない、なんてことない。

 

だから無理して「変わろう、変わらなきゃ」と思う必要はないの。 目指したいあり方が決まったら、それに向けて今できることはなんだろう、って今をちょっとずつ工夫するだけでいい。

一足飛びに劇的な変化を遂げる必要はないの。 少しずつ、ほんの少しずつしか変わってないとしても、ある日ふっと振り返ったらその積み重ねは自分でも驚くほどの変化として見えるから。

 

変わっていいんだよ。

日々変わっている、その変化を受け入れ、ちょっとずつ工夫して心地いい変わり方を探していけばいい。

 

人間っていいよね、だって◯◯があるんだから

人間のその限られた時間の中で、精一杯生きている姿がとても綺麗でさあ……憧れちゃうのよ。だからサ、おいらその真似事だけでもしたくてサ …… 人間っていいよな、夕士くん。

 

人間じゃない佐藤さんにこう言われて、夕士は「そんなことない!」と言い募ってしまう。

そんな憧れてもらうほどのものじゃない、綺麗でもないし、焦がれるほどのもんなじゃない、 俺なんて、友達は救えなかったし、嫌なところいっぱいあるし、今もモヤモヤだらけだし。自分の心さえままならない。ちっともいいもんじゃない。

だけど佐藤さんはそんな小さなことを言ってはいないの。

 

悪い部分もすべては君たちの一部だ。切り捨てることはできないよ。だからそれはそれとして置いといて、君の目は未来を見るんだ、夕士くん。なりたい自分をね。行きたい場所、やりたいこと、夢を見る人間には、無限の可能性があるんだよ。人間がおいらたちと違うのは、そこ。夢を描き、そこへ向かって突き進んでゆくこと。だから人間は素晴らしい。たとえ、そこに欲深さの罪はあっても、未来へ未来へと進化するのが人間だ。良いことと悪いことを繰り返しながら

 

妖怪がどんなものかを佐藤さんは多くを語らないけど、佐藤さんが言う「人間っていいよな」は「無限の可能性がある ”夢を見る" 人間はいいよな」ってこと。

たぶん妖怪には夢を見るってことも、夢を描き、そこに向かって突き進むってこともないのだろう。確かにそれはつまらなさそう。

 

明日なに食べよう。 今度の休みはなにして遊ぼう。 出世して社長になりたい。

時間的スパンはかなり異なるし、大きさもずいぶん違うけど、どれも夢を描いている。明日なに食べよう、だってちっちゃいけど自分の意思で描く立派な夢だ。でなければ、他の誰かの思うままに出されたものを食べることになる。

 

ありたい姿を描き、それに向かって今できることを一つ一つ積み上げていく。 なにができるか考え、工夫を重ねる。

 

きっと妖怪は思っただけで、すぐにその願いが叶ってしまうのだろう。 工夫を重ねる、っていうプロセスを楽しむことはかなわないのに違いない。

だから佐藤さんはこんなにも言うのだ。

人間っていいよな。プロセスさえも楽しめるのだから。

って。