妖アパ・妖怪アパートの幽雅な日常 ファンサイト

妖アパ・妖怪アパートの幽雅な日常のあらすじ(ネタバレ含)とか、名言とか、主人公ほかキャラクター紹介、好きな場面とか、です。

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ようこそ!
妖アパ.com、妖怪アパートの幽雅な日常ファンサイトへようこそいらっしゃいませ。

このサイトは妖アパこと、”妖怪アパートの幽雅な日常”にはまった管理人が、この小説(のちコミカライズ、アニメ化されました)の魅力を一人でも多くの方に伝えたい!と思い立って作ったファンサイトです。
たまたま何かのはずみでここにいらっしゃったあなたが、妖アパを好きになってくだされば嬉しいですし、このお話から何かしら人生のヒント、励ましになることばを見つけてくだされば、無上の喜びです。


妖アパ・”妖怪アパートの幽雅な日常”とは?

原作

『妖怪アパートの幽雅な日常』(ようかいアパートのゆうがなにちじょう)略して「妖アパ」は、香月日輪によるヤングアダルト(若者向け)小説。講談社YA!ENTERTAINMENTから全10巻刊行されています。2004年、第51回産経児童出版文化賞フジテレビ賞を受賞、2008年からは文庫版シリーズが刊行されており、シリーズ累計500万部を突破しています。

番外編として『妖怪アパートの幽雅な食卓 るり子さんのお料理日記』『妖怪アパートの幽雅な人々 妖アパミニガイド』および『妖怪アパートの幽雅な日常 ラスベガス外伝』もあります。

るり子さんのお料理日記は、寿荘のあの激ウマ料理のレシピ集。我が家でるり子さんの味が味わえますよ。


コミカライズ・マンガ化

深山和香によってコミカライズされ、講談社『月刊少年シリウス』2011年年7月号より連載開始、コミックスは2017年11月現在で15巻まで発売されています。深山和香は講談社文庫の期間限定版のカバーイラストも手がけられました。


アニメ化

アニメは2017年7月3日よりTOKYO MX他で放送スタート、2期26話まで放送されました。 キャストはコミックス単行本特装版の付録のドラマCDからの人気オリジナルキャストがほぼそのままキャスティングされ、ファンからは歓喜の声が上がったとか。

残念ながら私はその喜びをリアルタイム味わうことはできませんでしたが、このキャストは最高だと思います。


妖アパ・”妖怪アパートの幽雅な日常”との出会い

私がこの妖アパ・”妖怪アパートの幽雅な日常”に出会ったのはアニメからでした。2017年夏アニメとして2017年7月3日から放送が始まった時、好きな声優さんが何人かキャスティングされいたことから、なんとなく見始めたのです。

沼に堕ちたのは第2怪(回)「妖怪アパートの住人たち」で龍さんに出会ったとき。
この記事でも紹介していますが、あの龍さんの名言「君の人生は長く、世界は果てしなく広い。肩の力を抜いていこう」で堕ちました。

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第5怪(回)「ただいまと言える場所」で佐藤さんが夕士に語る場面を見て涙が止まらず、早速小説を読み始めました。

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まずは見たところぐらいまで、と1巻だけと思ったのは大間違い。読みながら涙が止まらず、ティッシュの箱をかかえ、ハナをぐずぐずいわせ、涙を拭きながら、2時間ほどで読み切ってしまいました。面白いし、言葉が苦しいほどに刺さるし、心をグワッとわしづかみにしてぐらぐらと揺さぶられ、そのままもう一度ふせんを貼りまくりながら読みました。もう次が読みたくて読みたくてたまらず、3冊、5冊と見つけた端から手に入れて読み漁りました。読み進めるのにふせんは手放せず、10冊の本は上に突き出たふせんでブラシのようになっています。

それぐらい、心をかっさらっていったのが妖アパ・”妖怪アパートの幽雅な日常”です。


妖アパ・”妖怪アパートの幽雅な日常”は実は大人向け?

妖アパ・”妖怪アパートの幽雅な日常”は、もともとは若者(高校生)向けの小説ですが、私が出会ったのは50歳になった時でした。
もっと早く出会いたかった、と思う反面、今出会ったからこんなにも刺さったんだとも思います。50歳といってもまだまだ人生は続きます。いろんな経験をしてきたけど、これからだって長い。まだまだチャレンジもできるし、いいことも悪いことも起こるだろうと思うと、出会った時がベストのとき。大人になって忘れてしまっていたり、無くしてしまったフレッシュな心を思い出させてくれ、これからの自分の人生もっともっと楽しくいいものにしていこう、という気にさせてくれました。

もしかしたらもう疲れちゃって、あとは余生をなんて思っている大人の人がいたら、ぜひ読んでみてほしいです。


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主人公 稲葉夕士

妖アパ・妖怪アパートの幽雅な日常 アニメ第1怪「夕士と寿荘」あらすじ・ネタバレ・見どころ・感想など

アニメもマンガにならって「回」表記は ”怪” です。妖怪の話だから怪、こういう当て字日本語ならではでいいですよね、好きです。

小説・マンガも未読、アニメ未視聴の方には一部ネタバレを含みますので、その点はご留意ください。 では、アニメ版妖怪アパートの世界へご一緒に!




収録話

アニメ妖アパ・妖怪アパートの幽雅な日常 第1怪「夕士と寿荘」には次のお話がまとめられています。

小説では 第1巻のこの二つ
妖怪アパートの幽雅な日常① 夕士
妖怪アパートの幽雅な日常① 寿荘

コミックスでは 第1巻のこの1話
第1怪 夕士と寿荘

ほぼほぼコミックスに準じた話の進展になるのかな?と思わせる話数です。


あらすじ

基本的にマンガと同じで、ほぼコミックス1巻第1怪通りに進みます。

寮のある城東商業高校に合格し、両親を亡くして以来厄介になっている叔父さんの家を出られると希望に溢れていた主人公稲葉友士の元に、その寮が火事で全焼したというニュースが飛び込んできて、反射的に「オレ、なんとかします!」と叔父さんの家から飛び出す夕士。

気づくと高校のある鷹の台駅まで来ていて、アパートを借りるというアイディアを思いつき不動産屋に入るものの、ろくに相手にされず、自分が何もできない子供であると思い知らされて落ち込んでいるところにふっと現れた少年。その子が教えてくれた「前田不動産」に行ってみると、人の良さそうなおじさんが親身に話を聞いてくれ、家賃2万5千円、賄いつきのアパートを紹介してくれる。

そのアパートの名は「寿荘」。行ってみるとそこは……


詳しくはコミックス版のあらすじをどうぞ、読んだら帰ってきてね。

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アニメならではの演出

あたり前のことですが、アニメでは色がつき、動き、声がつき、効果音や音楽が流れます。

同じ作品を小説、マンガ、アニメで見比べると、やっぱりアニメはリッチな表現ができるメディアだなぁと思うのです。

その音楽が流れるとあのシーンを思い出す、とかっていうのは映像作品ならではの楽しみ方だし、この声や音、曲をもって小説やマンガに戻ってみると、文字や平面的な静止画が立体的になって自分の中だけで動き出してくれる。そういう楽しみ方ができるのは多メディア展開されている作品ならでは。

そんな中からいくつか、ああアニメだからこんな描き方ができるんだなと思ったポイントをご紹介。


「前田不動産(有)」を教えてくれた小さな男の子

ぼんやりと言うよりむしろ透けてる、といった方が正しいこの描き方は、この男の子が普通の人間じゃないってことをストレートに見せてくれるな、カラーならではだな、と思います。


るりるりのテーマ曲?

夕士ウェルカムディナーのとんかつがドーンと出て、匂いにつられわらわらとみんなが食堂に集まってくる時に流れる曲。

妖怪アパートの幽雅な日常はサントラCDが出ていないので、曲名などは分かりませんが、アパートのほのぼのとした日常が描かれる場面でよく流れます。

食事シーンで多用されていると感じていて「るりるりのテーマ曲」と勝手に名づけて気に入っています。この曲が流れると、ほんわかした気分になり、なんならお腹まで空いてくるというパブロフの犬みたいなことが起きたり起きなかったりします。


黒いアイツ

黒い毛玉みたいで手足と目玉のついた、かわいいアイツ。
アニメではちゃんとエンディングに名前が出て、声優(佐々健太さん)がキャスティングされて、セリフもあります。その他の妖怪の中では破格の出世と言っていいのではないでしょうか。

カワイイです。お菓子好きみたいで、いつも長谷の高級お土産を狙っている、ほっこりさせてくれる黒いアイツ。何の役にも立たないけど、いるといいよね、っていう典型的なやつです。


みどころ

第1怪のみどころをいくつかご紹介(もちろん私見に基づいて)。


本当にしょうがないの?

しょうがない  (不動産屋一同、叔父さん)

マンガにもこのくだりはあるのですが、アニメで見るとこの「しょうがない」という言葉がやたら引っかかります。

前田不動産を除く不動産屋一同、ひろし叔父さん、みんな口を揃えてしょうがない、しょうがない、といいます。
3月も終わりとなると賃貸物件はだいたい埋まっている、一人暮らしで2、3万の家賃はかなり破格、見つけるのは相当難しいし、見つかっても相当古いか何かしら特殊な条件(いわゆる曰くつき)の可能性が高いから成約してくれないかもしれない、両親のいない高校生で保証人がいないとなると貸す側としては心配、と「しょうがない」と言いたくなる事情はわかります。

しょうがない、はもともと「仕様(しよう)がない」、「仕様」つまり「手段・方法」がないってことですが、本当にしようがないのか?ってちょっと立ち止まって考えてみると実はできることはある場合が多い。
だけど、そのためにはアレとかこれとかめんどくさいことがいっぱいあって、そのめんどくさいことはやりたくない、だったり、可能性があるだけでうまく行くと決まってるわけでもなかったりするから、できる可能性のあることをすべて見なかったことにして、ザーッと一緒くたにゴミ箱に捨ててしまう魔法の言葉。

それが「しょうがない」。

その投げやり感がとても印象に残っていて、この言葉はできるだけ日常から減らしたい、と強く思わせるような描写だなと感じました。


あんまり急いで大人になることないよ

荷物開けるの手伝うよ!と勢いよくダンボールを開け始め、位牌を見つけた秋音ちゃんに夕士は身の上話をします。しんみりした空気になりそうなのを避けようと「平気です、一人で頑張らないと」と元気そうに強がる夕士に

あんまり急いで大人になることないよ

といった秋音ちゃん。 初対面なのに夕士が今までいろんなことをがまんして、一人で抱え込んできて、早く「大人」にならなきゃって無理して背伸びしていることに気づいたんですよね。

一色さんのように年の離れた大人に言われるのではなく、1つしか年の違わない秋音ちゃんに言われたから、夕士もビクッとしたんじゃないかな。 沢城みゆきさんの表現によるところかもしれないですが、この場面、この一言はアニメが一番感傷的に感じます。


鳥1、2、3

小説ではものすごく存在が薄いけれど、マンガでは少し存在が認知され、アニメでは名物になったキャラクター、鳥1、2、3。

古本屋役の杉田智和さん、フール役の子安武人さん、龍さん役の森川智之さん。 声のキャストがこの3人で、声優の無駄遣い、とまで言われたこの鳥たち、丸っこい姿に似合わない鋭い指摘をするかと思えば、もうどうでもよすぎて勘弁してほしいこととか、いろんなことをちゅんちゅんさえずります。めっちゃ好きです!


BD/DVD-Box Vol. 2 には13話にも及ぶオリジナルドラマCD「トリおろし!鳥ボイス集」がついてます。

妖怪アパートの幽雅な日常 DVD-BOX Vol.2(セル)

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一色さんの目が開くとき

地下の岩風呂って普通アパートについてるもの?他にも変なこといっぱいあるんだけど?と次々湧いてくる数々のはてなをこらえきれず、ついに疑問を口にした夕士に

そりゃそうだよ、ここ妖怪アパートだもん
ね、大家さん

と平然と答える詩人一色黎明。現れた大家さんの姿を見た瞬間に気絶し、翌朝目覚めてさらにもうひとショック受け、本当に妖怪のでる(だけじゃなく住んでる)アパートだと事情が飲み込めた夕士に

で夕士くん、どうする?

と尋ねるとき、一色さんの目が薄く開きます。
この、一色さんの目が開くときって大抵なにかしら大事なこと、ぐさっとくるような鋭いことを言う時なので、目が開くと ”きたー!” となるのです。

これからも時々一色さんは目をうっすら開きいろんなことをボソッとつぶやきます、お楽しみに!


続きが気になる? 妖怪アパートの幽雅な日常 アニメ第2怪「妖怪アパートの住人たち」のあらすじはこちら

マンガと比べる? 妖怪アパートの幽雅な日常 コミックス第1巻のあらすじはこちら




妖アパ・妖怪アパートの幽雅な日常 マンガ・コミックス1巻あらすじ・ネタバレ・見どころなど

この物語は、主人公稲葉夕士(いなば ゆうし)のモノローグの形でお話が語られていきます。 はじめに主人公夕士の生い立ち、人間関係が描かれ、ある災難をきっかけに妖怪アパート・寿荘での生活が始まります。

未読の方には一部ネタバレになりますので、その点はご留意ください。 では、妖怪アパートの世界へご一緒に!

収録話とあらすじ

妖アパ・妖怪アパートの幽雅な日常 マンガ・コミックス第1巻には次の5話、プラス描き下ろし1編、おまけ1本が収録されています。

第1怪 夕士と寿荘
第2怪 妖怪アパートの住人たち(前編)
第3怪 妖怪アパートの住人たち(後編)
第4怪 クリとシロ(前編)
第5怪 クリとシロ(中編)
(描き下ろし)夕士くんの幽雅な日常 初夏編
(おまけ)妖怪アパートの幽雅な設定


第1怪 夕士と寿荘

この物語の主人公、稲葉夕士(いなば ゆうし)は条東商への入学を控えたもうすぐ1年生。 中1のときに両親を事故で亡くしてからずっと、伯父の家に身を寄せていました。叔父さん叔母さんは優しかったけど、やっぱり自分の両親ではないので気をつかうし、一つ年上のいとこ恵理子は年の近い男の子の夕士が一つ屋根の下で暮らすことにかなりのストレスを抱いていたようで、いつもピリピリ。肩身の狭い思いはもうたくさんだと寮のある高校を希望、見事希望の条東商に合格したのでした。

入学まであと1週間となった頃、その寮が火事で全焼というニュースが飛び込んできます。建て直されて寮に入れるのは半年後。伯父さんの家にはもう1日たりとも居たくなかった夕士は、アパート探しに不動産屋を回りますが、子ども扱いされてどこも門前払い、ろくに話も聞いてもらえません。

途方に暮れて、公園のベンチで頭を抱えていたところにひょっこり現れた小さな男の子が「あそこで相談してみたら? きっといいところを紹介してくれるよ」と指差した先にぼうっと浮かび上がるのは「前田不動産」という看板。

親身に話を聞いてくれた前田不動産のおじさん。寮ができるまでの半年だけ、自分が持っているアパートの部屋を特別に貸してくれると言い出します。賄い付きで家賃2万5000円、アパートの名は「寿荘」。 あまりにできすぎた話に訝る夕士に、「実はいわくつき。出るんだな、これが」とオバケのような手つきをしておどける前田のおじさん。一瞬迷うものの、どうしても叔父さんの家を出たい夕士はその話に飛びつき、前田のおじさんに連れられ寿荘にやってきます。

外観は壁にツタの絡まるレトロな洋館、食堂の隣にある広い縁側のある和室の居間がとても居心地良さそうな素敵なアパートです。

最初に出会った住人は、夕士も大ファンの耽美小説家であり詩人の一色黎明、明るく元気な女子高生、久賀秋音ちゃん。
憧れの詩人が住んでいる、可愛くて明るい女子高生も住んでいる。 素敵なアパート生活を予感した夕士でしたが……。



第2怪 妖怪アパートの住人たち(前編)


次々と出会う妖怪アパート・寿荘の住人に夕士は驚いたり、面食らったり、気絶させられたり、息つく暇もありません。

佐藤さん、山田さんは幽霊。佐藤さんは一流企業に勤め、毎日スーツを着て出勤していると聞き、幽霊でも一流企業に勤められるのか?と夕士は複雑な表情。

同じく幽霊の小さな男の子クリとそのそばを片時も離れない白い犬のシロ。シロも幽霊。びっくりしながらもクリにそぉっと手を伸ばし頭を撫でてみた夕士は、かわいい……とちょっと感動します。

画家の深瀬明に「人間かどうか」を尋ね、いきなりカツをくらい、賄いのご飯の美味しさに、るり子さんがお化けでもかまわないといった舌の根も乾かないうちに「手首だけ」と聞いて気絶する夕士。とにかく忙しい。

怪しさ全開の骨董屋、住人だけじゃなくご近所さん(人ではない)まで次々と現れ、世の中いろんなことがあるんだなと受け入れ始めた夕士にとどめを刺したのは美人幽霊のまり子さん。湯上りの半裸姿でビールをおっさんのように飲み干し、「よろしくねー」と夕士をその立派な胸の中にむぎゅっと抱きしめたものだからとうとう夕士も「いいかげんにしてくれー!」と叫んでしまうのでした。

一瞬場がシンとなり、しまった、自分の反応がみんなを萎縮させてしまったかと思った夕士。

そこに登場したのは、こののちずっと夕士が憧れ続け、その言葉を胸に抱いていくことになる龍さん。龍さん登場の場面はビジュアル化されているマンガならでは。必見です。



第3怪 妖怪アパートの住人たち(後編)

クラスメイトの田代 貴子(たしろ たかこ)は明るくて物怖じせず、竹を割ったような性格。中学時代は心を閉ざし、小学校からの親友の長谷 泉貴(はせ みずき)以外ほとんど友達はおらず、年の近い女子といえばいつも冷たく当たられているいとこの恵理子しか知らない夕士は、そんな田代に始めは驚くものの、英会話クラブも同じで女子のわりにサバサバしていてつき合いやすい性格の田代と仲良くなっていきます。

そんなある日の学校帰り、いつものようにかしましくおしゃべりしながら帰っていく田代の後ろ姿に夕士は強い胸騒ぎを感じて……。

夕士は自分でも知らなかった力を発揮し、思わぬ形で友達を助けます。



第4怪 クリとシロ(前編)

夏休み、運送屋のアルバイトに英会話クラブの活動と忙しい夕士。寿荘の生活にも慣れてきました。手だけしかない賄いのるり子さんが作ってくれる食事は美味しいし、地下の温泉岩風呂はいつでも入れて気持ちいいことこの上なし、幽霊がいても妖怪がいても、まあいっか。そんな生活もあとわずかだし、と思うようになっていましたが、突然現れた見知らぬ霊獣に腰を抜かすほど驚きます。

その霊獣、オオカミは茜さまといい、クリを母として守ってきたのでした。 クリは2歳ぐらいのときに実の母親に虐待され、殺されました。シロは生前全くクリの世話をしない母親の代わりにクリの面倒を見ていた白いメス犬でした。

シロはクリが母親に殺された場にも居合わせ、クリが殺されるとその場で母親をかみ殺し、それを見ていた他の人間に殴り殺されてしまいますが、それはずっとクリのそばにい続けるためにシロが自身が選んだ道でした。

クリの母親は自ら殺したにもかかわらずクリに執着し、悪鬼の霊となってクリが死んだ後も追いかけてきました。シロはそんなクリを背に乗せ、犬族の神、大神様のところに逃げこみます。大神は魂まで母親の念でけがれてしまっているクリを滅しようとしましたが茜さまに助けられたのでした。



第5怪 クリとシロ(中編)

夏休みも終わりに近づいたころ、クリの母親の来襲の気配にアパートの住人は撃退の準備に入ります。クリの母親は未だクリに執着し続け、時折クリを求めて寿荘にやってくるのです。茜さまがアパートに現れ、出かけている龍さんも式神を送ってきてくれる。なんでも飲む理由にしてしまうこのアパートの大人たちは酒宴の準備。

みんなに見ない方がいいと言われる中、母親の執着とはどんなものなのか、自分の目で見てみたいと、クリの母親との対峙に立ち会うことにします。自分にはもういない母親、亡き母のことも思いながら。

ついに現れたクリの母親の姿を見た夕士は……



(描き下ろし)夕士くんの幽雅な日常 初夏編

ある夏の1日。
運送屋のバイトでクタクタになってアパートに帰ってくる夕士を出迎えてくれる華子さん。 姿が見えないけど?と訝る夕士に、一色さんはそのうち見えるようになるよ、と気安く言います。夕士はアパートを出るまでに華子さんの姿を見られるのでしょうか?



(おまけ)妖怪アパートの幽雅な設定

寿荘の建物や妖アパ名物るり子さんのザ・家庭料理(にしては豪華すぎる?)な毎日のメニュー。文字だけの小説からビジュアルを起こしていった裏がわがちょっとだけ覗けます。



みどころ・名場面

妖怪アパート・寿荘に来て、夕士はたった2日の間に今までの常識を根底から覆されるような経験をしますが、その短い間にアパートの住人の口から語られたり、何気なく漏れたつぶやくような一言にどんどん刺激を受けていきます。

その一言一言は、読んでいる私たちにも語りかけてくるようで、ちょっとした一言に心が揺さぶられることも。
その一つが「あんまり急いで大人になることないよ?」と秋音ちゃんが初対面で夕士にかけた言葉。 この子凄っって、ビビった一言です(あんたまだ高校生やろ?)。 一色さんや深瀬明も何気にいろいろと深いことを会ったその日に繰り出してきます。

それらのことばに読んでいる自分の心がどう反応するか、その時々で違ったりするのもこの作品の面白いところ。 前はなんとも思わなかかったのに、今回はぐさっと刺さったり、その逆だったり。読んだ時の自分の状態や環境によって反応が変わったりするのを自分で観察してみるのも楽しいです。

なんと言っても一番の見所は「龍さん」登場に続くあの名言が語られる場面(100%私見です!)ここは何度読んでもぐっと心にしみますけどね!

あなたもお気に入りの場面や言葉が見つかりますように!

妖アパ・妖怪アパートの幽雅な日常 主なキャラクター・登場人物の紹介

妖怪アパートの幽雅な日常には、バラエティに富んだ個性豊かなキャラクターたちがたくさん登場します。人間あり、妖怪あり、モノノケ(?)あり、美男美女、天才的な歌手、怪しげなおっさん、いろいろいるので、きっとあなたのお気に入りが見つかると思います。

では、主なキャラクターたちのご紹介行ってみよー。





主人公 稲葉夕士と親戚


  • 稲葉 夕士(いなば ゆうし):
    主人公、条東商業高校1年生。中学一年の時に両親を交通事故で一度に亡くし、叔父の家で暮らすことになる。1日も早く自立して叔父の家を出たいと寮のある城東商に入学するが、入学2週間前にその寮が火事で全焼したことをきっかけに、妖怪アパートこと寿荘に住むことになる。

  • 稲葉 恵子:伯母

  • 稲葉 博:伯父

  • 稲葉 恵理子:従姉(叔父夫婦の娘)夕士と年齢が近く、夕士がおじさんの家に住んでいたときは夕士の存在を疎ましく思い、いつもイライラしていたが……


親友・長谷泉貴とその一家


  • 長谷 泉貴(はせ みずき)

    :小学生の頃からの夕士の親友。容姿端麗、家は金持ち、頭もよく、合気道の達人。有名進学校の生徒会長を1年のときから務める。何不自由なさそうに見えるが、家族の中では最も地位が低く、父親と姉を見返す日のために力を蓄えている。

  • 長谷 慶二(はせ けいじ):泉貴の父親、恭造の次男。長谷財閥には関わらず、自らの力で大手企業の役員に上り詰めた実力者。家族に優しく、いつもカッコよくて夕士の憧れの人。息子の泉貴にとっては目標でもありライバル。

  • 長谷 瑞羽(はせ みずは):泉貴の母親、穏やかな美人。夕士のことを息子のように可愛がりいつも気にかけている。

  • 長谷 汀(はせ みぎわ):泉貴の美人の姉。泉貴を奴隷のごとくこき使う。合気道も強く泉貴は未だに勝てない。

  • 長谷 恭造(はせ きょうぞう):泉貴の祖父、1代で長谷財閥を築き上げたたたき上げの人。泉貴の父慶二の事を疎んじながらもそのビジネスの才能を惜しみ、その結果……


    妖怪アパート・寿荘の住人

    人間(ペットも含む)


  • 一色 黎明(いっしき れいめい):妖怪アパート・寿荘に10年以上住んでいる古参住人、耽美詩人。ラクガキのような顔をしている。

  • 深瀬 明(ふかせ あきら)&愛犬シガー:見た目は暴走族のヘッドにしか見えない画家。海外で人気がある。自分の個展で大暴れするのを楽しみにしているファンが多い。愛犬のシガー(オオカミの血が混ざっている大型犬)をいつもタンデムでバイクに乗せている。

  • 久賀 秋音(くが あきね):夕士の1つ年上の女子高生。除霊師の修行のため、夜は妖怪病院「月野木病院」でアルバイトをしている。ものすごい大食い。

  • 龍(りゅう)さん:高位の霊能師。24歳ぐらいに見えるが年齢不詳。長い黒髪に全身黒ずくめで長身痩躯の美男子。あまりアパートにはいないが、夕士のことを常に温かく見守っている。

  • 古本屋:世界中を巡り、時には時空を超えて古書、稀書、様々な本を仕入れてくる。あやしげな本も多い。夕士とプチたちとの縁をとりもつきっかけになる。実はブックマスター(魔道書使い)で、夕士を後輩扱いする。僻地に行くことが多いため、アパートに帰ってくると「日本人でヨカッタァ!」と涙を流しながらるり子さんの料理を貪り食う。高級な酒が飲み干された直後に帰ってくるという間の悪さもある愛嬌者。

  • 骨董屋:ユニコーンの角など怪しげな商品を売る商人。ダンディーな姿、抜け目なさそうでいて、時々間抜けなことも言ったりしたりする。異次元も行き来し、ヴァチカンの「奇跡狩り」から追い回されている。


    妖怪・幽霊・モノノケ?(人間でない)アパートの住人


  • るり子さん:手だけの幽霊。寿荘の賄いさん、スーパーおいしいご飯を作ってくれる。

  • 佐藤幸司:妖怪。人間に憧れて、人間として生活している。何度もサラリーマン生活を繰り返し、現在は大手化粧品会社 ”ソワール化粧品” の経理課長。

  • クリ:2歳くらいの男の子の幽霊。目がくりっとしているので「クリ」と名づけられた。成仏するのを待っている。

  • シロ:犬の幽霊。生きているうちから今までずっと母親のようにクリを守り続けている。大家さん:妖怪。真っ黒な卵のような姿の黒坊主。いつも家賃の大福帳を持ち歩いている。力を使い果たすと白くなるが、地下の温泉につかると黒く戻る。

  • まり子さん:ナイスバディーな美人の幽霊。訳あって成仏していない。死んでから長いため中身、性格はオヤジ化しており、風呂上りにはほぼ半裸でビールを飲み、広いからといって平気で男湯に入ってくる。

  • 華子さん(仮名):いつも着物姿で玄関先「おかえりなさい」と出迎えてくれる。着物の柄は季節によって変わる。

  • 鬼:暗い部屋で衝立の向こうでマージャンをしている4人の鬼。マージャンを邪魔されるのが嫌い。

  • 貞子(仮名):腰まである長い黒髪の女の幽霊。風呂やトイレなど水周りが好きで、その辺りによく出没する。

  • 黒いアイツ:いつもふわふわ漂っている。長谷の持ってくる差し入れをいつも狙っている。

  • 鳥1:夕士を起こしてくれたり、余計なことを言ってみたり。

  • 鳥2:

  • 鳥3:


条東商業高校の生徒たち&先生たち

生徒たち


  • 田代 貴子(たしろ たかこ):夕士のクラスメイトで同じ英会話クラブにも所属。夕士が「かしまし娘」と呼ぶ3人組のリーダー格。かしまし娘の他の二人(垣内、桜庭)からは「タァコ」と呼ばれる。女子のわりにサバサバしていてつき合いやすい性格。夕士、千晶も恐れるほどの情報通で要所要所でその情報を活用する。

  • 桜庭 桜子(さくらば さくらこ):かしまし娘その2。田代や垣内からは「桜」と呼ばれる。

  • 垣内 由衣:かしまし娘その3。田代や桜庭からは「ウッチー」と呼ばれる。

  • 神谷 瑠衣(かみや るい):才色兼備の生徒会長。裏で「兄貴」と呼ばれ、学内では絶大な人気と権力を誇る。

  • 山本 小夏(やまもと こなつ):夕士が所属する英会話クラブに入ってきた1年後輩の転入生。優秀な姉へのコンプレックスから承認欲求が強く、常に相手より優位に立とうとする。


先生たち


  • 三浦 勝正(みうら かつまさ):事件を起こした精神的に欠陥があると思える英語教師

  • 早坂 敏三(はやさか としぞう):2年C組の担任。田代は「トシゾーちゃん」と呼んでいた。持病の悪化のために休職し、後任として千晶が赴任する。

  • 千晶 直巳(ちあき なおみ):休職した早坂敏三の後任で2学期から2年C組の担任として赴任。簿記と生徒指導担当。天才的な歌唱力と類い稀なルックスの良さから女子生徒から絶大な人気を誇る。夕士と屋上の秘密の場所を共有する。

  • 青木 春香(あおき はるか):三浦の後任として条東商にやってきた英語教師。聖書を愛読する経験なクリスチャンで、清楚な美人。一見親切で思いやりに溢れるようだが、相手のことをよく見ずに自分の「カテゴリー」にあてはめた言動をするため、夕士や田代はいつもカチンとさせられる。千晶と赴任時期が同じで美男美女、考え方が正反対ということもあり、千晶派、青木派と人気を二分する。

プチ・ヒエロゾイコン


  • フール:

  • ノルン:


クラブ・エヴァートン関係


  • 神代正宗(マサムネ):千晶の親友。千晶の身の回りの世話を焼いている。合気道の達人。

  • 土方薫(カオル):千晶の従兄


その他


  • 前田のおじさん:夕士に妖怪アパートこと寿荘を紹介した駅前の前田不動産のおじさん。丸メガネで丸っちい体型。

  • 茜(あかね):犬族の神・大神様に仕えている霊獣(山の犬=オオカミ)。夕士が一度アパートを引き払った時に歌を贈ってくれた。

  • 又十郎(またじゅうろう):熊野の隠れ里に住むマタギで、一つ目の巨人。大量の山の幸を届けてくれる。

  • 薬屋:行李の中に様々な薬を入れて売り歩く行商人。顔がへのへのもへじの妖怪。
    クリの母親:生前クリが生まれたせいで男に捨てられたと、クリを恨み、憎み、結局クリを殺し、怒ったシロにかみ殺さた。憎しみが執着となり、クリを襲いに寿荘に時々やってくるたびに茜さんに撃退される。

  • 藤之医師:秋音が霊力の修業のため毎夜アルバイトしている月野木病院の院長。霊能者。病院は普通の病院が受け入れない行き場のない人間の患者も受け入れている。

  • 剣崎社長:夕士のアルバイト先の運送業の社長。夕士を気に入っており、社員にと何度も誘う。

  • 浅田有実(ゆうみ):自殺しそうだったところを偶然夕士が助けた小6の女の子。背伸びしたくて、初めて会った時夕士が自分より年上かと思うほどの厚化粧をしていたが、夕士との出会いをきっかけに子供らしさを取り戻し、英会話にも興味を持ち始める。


普通ってなに? 当たり前って? それ大事?

 

そんなのありえない〜 あったりまえだろ〜 え〜、そんなの常識じゃない! 普通さぁ、そんなことしないよね。

 

どれも、日常的によく口にすることばたち。 数えてみたことはないが、1日に一度かそれ以上、ほぼ無意識的に使っていると思う。 実際私は「ありえない〜」が口癖だった頃があったけど、いつだったかある時から意識的に使わないように決めた。

ありえないって言ってるお前がありえねーだろって気づいたから。

ありえないって、なに前提? 当たり前、ってほんと? 常識、って誰の? 普通、じゃそうじゃないと異常なの?

普通って? 常識って? そういうことを妖アパは、繰り返し繰り返しいろんな場面で描いて知らせてくれる。

 

同じだと、なぜか安心

 

出身が同じ、血液型が同じ、好きな音楽が同じ。 わー!私も、俺も!と盛り上がるひととき。

人と共通点を見つけると、私たちは嬉しい。 その相手との距離がぐっと近くなった気がする。 初対面の相手でも、仲良くなれそうな気がする。

ほんの小さなことでも「共通点」を見つけると人は親近感を抱く、というのは心理学的にもよく言われていることで、それはそのまま「安心感」につながる。 (芸能人格付けチェックでドアを開けた時に抱き合って喜んでいるのはこれを端的に示していて面白い)

 

裏を返すと、同じじゃない、共通点が見つからない相手に対しては親近感は生まれにくく、距離を感じ、安心できない。 安心できない、が高じていくと、不安、恐れ、敵対意識なんかにつながってしまう。

それはある意味しょうがないことなのかもしれない。 いかにも自分より大きくて強そうで、自分をとって食いそうな相手に親近感を抱けと言っても難しいし、恐れるなというのが無理ってもの。

○○したがる私たち

だからと言って、異質なものは全て敵、寄らば斬る、てのも極端すぎ。 原理主義に陥ってしまう。

線引きをして ラベルを貼って グルーピングしたがる

そしてしばしば、中身を確認することもなくラベルだけで相手のことを決めつけてしまう。

 

見たことある、知ってるのは、いい けど 見たことない、知らないのは、よくない

とか

 

同じ、は仲間だけど 違う、は仲間じゃない

とか

 

だから夕士が初めて寿荘でオバケやら妖怪やらに出会い、常識が崩れパニックになったときの住人とのやりとりがとっても面白い。 こんな環境にいて平然としている一色さんが不思議でしょうがない夕士。 あろうことか一色さんの口からはこんな言葉まで。

 

「面白い仲間たちだからネ」 詩人は笑って答えた。 「仲間? オバケが?」 「そぉ、彼らはアタシたちと同じ。彼らなりに普通に暮らしているだけ。中にはいいモノも悪いモノもいる。これもアタシたちと同じ。なにも変わらないよ」

by 一色黎明(詩人) 「妖怪アパートの住人たち」(第1巻)

 

夕士の反応は、とっても分かりやすい「ふつう」の反応。 一方でここに十何年住んでいる一色さんから返ってくる言葉も、”彼の” 普通がベースになってる。

ベースが違うのだから、そりゃ噛み合わない。

 

画家の深瀬とのやりとりなんて顕著で。 たぶん自分が夕士の立場だったら、同じかもっと取り乱すかも、と思いながらも端からみると相当笑える。

 

「オ……オバケ⁈ オバケなのか⁈ なんで……え? あれ? 一色さんや深瀬さんは人間で……あれ? 一色さんは、もう十何年ここに住んでるって……?」 「ああ、俺も十年以上ここにいる」 画家は煙草をくゆらせた。 「なんの問題もないぜ?」

by 深瀬明(画家) 「寿荘」(第1巻)

これも、あれも、もしかしたら……

 

あんなに初対面の時はアパートのオバケや妖怪に驚いていた夕士も、しばらくしたら「見えるものが増えてきた」と言えるほどに慣れていく。

人の順応力ってすごい。 全く知らない”ゼロ”から、少しでも知ってる域に踏み入れたらどんどん平気になっていくのは、思い車輪もはじめにゴロンと転がってしまえば加速がついて早く回っていくのに似ている。

知らないものは得体が知れず、モヤっとしてるから怖いだけ。 知ってしまえば、その怖さはなくなる。

前から知ってるものに似てるかもしれない。 実は捜し求めていたものかもしれない。

 

この朝の風景と同じく、なにひとつ変わらないようで実は全く違うものが、自分がそう思いこんでいるだけで、実は全く違うことが、世界には溢れているのだ。

by 夕士 「妖怪アパートの住人たち」(第1巻)

 

知る、という光が差すと世界はもっと広くなる。 そう、知るだけでいいの。

 

理解するのはもっと、ずっと後でいい。

 

 


ダテに何百年生きてない。佐藤さんの重みのある言葉

アニメでは第5回、文庫版では第1巻 第6話で、主人公夕士を泣かせる深い深いセリフを語ってくれた "妖怪" 佐藤さんの名言をお届け。

龍さんではまった妖アパ沼にこれでみごとに落ちました。

 

人は時代とともに変わるもんだ。変わっていいんだよ。おいらだって変わってきてるさ。でなきゃ会社の中でやっていけない。確かに昔に比べれば、甘ったれた人間が増えてきてる。時代は確実に翳ってきてる。でも、それで終わりじゃないんだよ、夕士くん。 おいらたちは長生きする。だから、人間とは時間のスタンスが違う。おいらたちは、何事も長い目で見るんだ。人間のことも長ーーーい目で見てるよ。今わ悪くても、いい時代は必ずくる。すべての歴史はその繰り返しだ。そして次の時代をつくるのは、君たちのような若い子なんだ。 悪い部分もすべては君たちの一部だ。切り捨てることはできないよ。だからそれはそれとして置いといて、君の目は未来を見るんだ、夕士くん。なりたい自分をね。行きたい場所、やりたいこと、夢を見る人間には、無限の可能性があるんだよ。人間がおいらたちと違うのは、そこ。夢を描き、そこへ向かって突き進んでゆくこと。だから人間は素晴らしい。たとえ、そこに欲深さの罪はあっても、未来へ未来へと進化するのが人間だ。良いことと悪いことを繰り返しながら

by 佐藤さん 「ただいまと言える場所」(第1巻)

 

佐藤さんって?

佐藤さんは、妖怪アパートの住人の一人。

入社以来、勤続20年。大手化粧品会社「ソワール化粧品」の経理課長。女子社員に人気ナンバーワンのナイスミドル。”銀髪の佐藤”。と自称する、実は人ではなく妖怪。

ちゃんと自己設定を作り上げていて、アルバムも完備。お見合い結婚した”あんまり美人じゃない” 妻と子の写真を定期入れに入れていたりするところまでぬかりない。

人間に生まれたかったのに妖怪に生まれてしまったので、その真似ごとがしたくて「普通」の人間として生きている。これを何十年も繰り返している。

妖怪とバレないように会社では目立たないようにしている、なのに女子社員人気ナンバーワンなのか?ところどころ不思議な人(いや妖怪)。

白米が大好き。お酒ももちろん大好き。

妖怪アパートの住人の中では、さほど目立つキャラではないけど、夕士が悩みやもやもやをアパートの食堂や居間で大人たちに話しているときにこっそり鋭いことを言ったりする。

アニメでは遊佐浩二さんがCVを務めているのだけど、なんかもうしっくりきすぎて怖いの。

 

普通ってなに?

毎日通勤し、小料理屋でおでんに焼き鳥、だし巻きやらをつまみに酒を飲む妖怪、佐藤さん。 その外見はとても「普通」で、仕事ぶりもそこそこなら、奥さんも”あんまり美人じゃない”ときている。高校はテニス部でW代の経営学部卒業、とその「普通」ぶりは徹底している。

あまり目立ったりすると妖怪であることがバレてめんどくさいことになるのを避けるっていうのもある一方で、これが”普通に人間として生まれ、生きたかった”、という佐藤さんの理想なのだろうという人生を歩んでいる。

だけど中身は妖怪なの。

外見はとてもとても普通だけど、中身はとてもとても普通じゃない。

この佐藤さん、普通といっていいのか、そうでないのか?

そもそも”普通”ってなんなんだろう?

辞書で普通を引いてみるとこんな感じ。

ふつう【普通】 一 ( 名 ・形動 ) [文] ナリ ① いつでもどこにでもあって、めずらしくない・こと(さま)。 「日本に-の鳥」 ② ほかとくらべて特に変わらない・こと(さま)。 「ごく-の家庭に育つ」 「 -ならもう卒業している」 ③ 特別ではなく、一般的である・こと(さま)。 「 -高校」 ▽↔ 特殊 二 ( 副 ) ① その事柄が多くの事例にあてはまるさま。一般に。 「日本では入学式は-四月だ」 ② いつもではないが、ほとんどそうであるさま。たいてい。 「朝は-七時に起きる」

大辞林 第三版

 

よく見かける、特別じゃない、他と比べて突出したものがない、っていうことだろう。 うっかりすると埋没して見過ごしてしまいそう、そんなところ?

 

その”普通”に佐藤さんは憧れていた。 佐藤さんが会社での仕事ぶりを”そこそこ”にしているあたり、あえて埋没を狙ってる。 意図的な「普通」、作り上げた「普通」。

私たちは「普通じゃヤダ」としばしば思う。十人並みなんて嫌だ、私はそんなもんじゃない。差別化したい。人と違ったものが欲しい……。 この正反対のことを佐藤さんはしている。いかに普通にするか、に腐心して。

 

普通の人は普通じゃない、に憧れる。 普通じゃない人は逆に普通に憧れる。

 

ないものねだりというか、自分じゃないものになりたいというか……。 成長意欲はいいのだけど、自分じゃないものになりたいのは、ちょっと違う気がする。

 

そもそも、普通かどうかを考えることそのものも意味がないのかも。

だって、世の中に同じ人は一人としていないのだから。 一人一人、違うのだから。 共通点を抽出して、グルーピングして、その中に収まって安心するのって違うんじゃないの?

 

変わらなきゃ、より、変わっていい

成長意欲がある人は「変わりたい、変わらなきゃ」とよく言う。 ここでもこんなことを書いたりしているので、私だって「変わりたい願望」はあるほうなんだろう。

http://www.xn--cck0e347k.com/2017/12/09/kawaritai-kawarenai-oshiete-ryu-san/

 

だけど、よく観察してみるといい。 私たちは毎日変わっている。

髪の毛が伸び、爪が伸び、皮膚が下から押し上げられるという物理的な変化だけでなく、 昨日信じていたことを今日は信じられなかったり、 昨日まで食べられなかったピーマンが今日は食べられるようになってたり。 そんな小さなことでさえ変化してる。

 

なんにも変わらない、なんてことない。

 

だから無理して「変わろう、変わらなきゃ」と思う必要はないの。 目指したいあり方が決まったら、それに向けて今できることはなんだろう、って今をちょっとずつ工夫するだけでいい。

一足飛びに劇的な変化を遂げる必要はないの。 少しずつ、ほんの少しずつしか変わってないとしても、ある日ふっと振り返ったらその積み重ねは自分でも驚くほどの変化として見えるから。

 

変わっていいんだよ。

日々変わっている、その変化を受け入れ、ちょっとずつ工夫して心地いい変わり方を探していけばいい。

 

人間っていいよね、だって◯◯があるんだから

人間のその限られた時間の中で、精一杯生きている姿がとても綺麗でさあ……憧れちゃうのよ。だからサ、おいらその真似事だけでもしたくてサ …… 人間っていいよな、夕士くん。

 

人間じゃない佐藤さんにこう言われて、夕士は「そんなことない!」と言い募ってしまう。

そんな憧れてもらうほどのものじゃない、綺麗でもないし、焦がれるほどのもんなじゃない、 俺なんて、友達は救えなかったし、嫌なところいっぱいあるし、今もモヤモヤだらけだし。自分の心さえままならない。ちっともいいもんじゃない。

だけど佐藤さんはそんな小さなことを言ってはいないの。

 

悪い部分もすべては君たちの一部だ。切り捨てることはできないよ。だからそれはそれとして置いといて、君の目は未来を見るんだ、夕士くん。なりたい自分をね。行きたい場所、やりたいこと、夢を見る人間には、無限の可能性があるんだよ。人間がおいらたちと違うのは、そこ。夢を描き、そこへ向かって突き進んでゆくこと。だから人間は素晴らしい。たとえ、そこに欲深さの罪はあっても、未来へ未来へと進化するのが人間だ。良いことと悪いことを繰り返しながら

 

妖怪がどんなものかを佐藤さんは多くを語らないけど、佐藤さんが言う「人間っていいよな」は「無限の可能性がある ”夢を見る" 人間はいいよな」ってこと。

たぶん妖怪には夢を見るってことも、夢を描き、そこに向かって突き進むってこともないのだろう。確かにそれはつまらなさそう。

 

明日なに食べよう。 今度の休みはなにして遊ぼう。 出世して社長になりたい。

時間的スパンはかなり異なるし、大きさもずいぶん違うけど、どれも夢を描いている。明日なに食べよう、だってちっちゃいけど自分の意思で描く立派な夢だ。でなければ、他の誰かの思うままに出されたものを食べることになる。

 

ありたい姿を描き、それに向かって今できることを一つ一つ積み上げていく。 なにができるか考え、工夫を重ねる。

 

きっと妖怪は思っただけで、すぐにその願いが叶ってしまうのだろう。 工夫を重ねる、っていうプロセスを楽しむことはかなわないのに違いない。

だから佐藤さんはこんなにも言うのだ。

人間っていいよな。プロセスさえも楽しめるのだから。

って。




変わりたいけど、変われない。そんな時どうする?

好きになる作品の共通点として、出てくるキャラクターのほとんどを好きになる。 妖アパに出てくるキャラクターも、みんな大好きですが、やっぱりわたし的ナンバーワンは龍さん。 圧倒的一位、揺るぎない一番 次点は千晶先生かなぁやっぱり。

その龍さん沼にはまったのが第1巻のこのくだり(妖怪アパートの住人たち)

昔は、緑と土と水が豊かで、人間たちの心も豊かで、暗闇がたくさんあって、オバケたちもあちこちに暮らしていたと思うよ。でも、今の世の中には自然がない。暗闇もない。人間たちは心を閉ざしてしまっている。オバケたちは追いやられているんだ。 ”不思議”は、すごそこにあった。人の手の届くところに。人のすぐ隣に。人と不思議は共存していたんだ。それが当たり前だった。人間たちが”合理性”、”便利性”を優先させるため一方的に切り捨ててしまったのは、目に見える自然だけじゃないんだな。 時とともに、変わらないものなどないよ。人の暮らしも、自然のあり方も、妖怪たちの存在も、幸せも豊かさも、変わってゆくものだから…… 苦しみも哀しみも、物事のたった一面にしか過ぎない。ましてや君はまだ若いんだ。現実はつらいばかりじゃない。君さえその気になれば、可能性なんて無限にあるんだ。考え方一つで世界は変わるよ。君の常識があっという間に崩れたようにね。 君の人生は長く、世界は果てしなく広い。肩の力を抜いていこう。 魂は時間とともに連綿として永遠だけど、私たちが垣間見ることができるのはほんの一瞬であり、私たちの存在もあやうく心もとないものだ。轟々と渦巻く時間と運命の前で、大宇宙の下で、無限の次元の狭間で、私たちは砂粒ほどにも満たない。それでも、この次元を支えている源であることには変わらない。生きて、暮らして、活動することが、この次元を支えることになる。そうして次元の命というものは、鎖のようにつながって次から次へとエネルギーを送って行くんだ。どんな形であれ、生きることそのものに使命があり、価値がある。宇宙を貫く軸の一端を担っていることになるんだ。 俺にはよくわからない話だった。でも、聞いていてなんだかとても気分が良かった。なんだか、詩の朗読を聞いているような感じだった。言葉の意味はわからなくても、そこに込められた思いみたいなものが「音」になって脳に直接届くような・・・・そんな感じだった。もっと聞きたい。もっと何か話してくれ。龍さんはそんな気にさせる人だった。  

こうなりたい、より、こうありたい

こんなふうにありたい。「在り方」の理想、龍さん。

俺にはよくわからない話だった。でも、聞いていてなんだかとても気分が良かった。なんだか、詩の朗読を聞いているような感じだった。言葉の意味はわからなくても、そこに込められた思いみたいなものが「音」になって脳に直接届くような・・・・そんな感じだった。もっと聞きたい。もっと何か話してくれ。龍さんはそんな気にさせる人だった。

最初にアニメから入ったためか、この「聞いていてなんだかとても気分がいい」とか「詩の朗読を聞いているような感じ」というのは森川智之さんの声によるところも多分にあるとはいえ、龍さんが自分で体験した上で紡ぎ出される言葉、龍さんが優しいだけの人じゃない、というところから滲み出てきているのだと思う。

人は他人からのアドバイスを受け入れたり受け入れなかったりする。後から考えてみれば、あの人が言ってくれたことは、今この人が言ってくれてることと同じだったのに、なぜ素直に聞けなかったのか?と思うことはよくある。 本もしかり。似たような内容の本を何冊か読むと、言葉がすーっと入ってきて腑に落ちるのと、そうでないの。よく読むとメッセージとしてはほぼ同じ。

相性、と言ってしまうと身も蓋もない話だが、やはりそこは相性。

言ってくれた人と自分との関係性、その相手が発した言葉と自分との相性、それらのどちらか、または両方がピタリとはまると、そのアドバイスだったり助言だったり、体験談は自分にとって価値あるものとして耳の奥まで入りこみ、心に滲みていく。

夕士が「言葉の意味はわからなくても、そこに込められた思いみたいなものが「音」になって脳に直接届くような」と言ったように。

龍さんは、「在り方」が美しく素敵。いつも涼しげで、見守ってくれていて、言葉に温かみと深みがある。人を魅了する。

よく「あの人みたいになりたい」「ああなりたい」「こうなりたい」というけれど、人は真似ることはできても他人になることはできない。こういう言葉を吐くとき、たいていは「あの人”のように”」じゃなくて実はもっと「あの人の人生を生きたい」「あの人と入れ替わりたい」ぐらい羨ましいと思っていることが多い。

真似てスキルを身につけても「あの人”みたいにできた”」り「あの人っぽくできた」ことにはなってもやっぱり「あの人になる」ことはできない。

だけど「あの人みたいにありたい」ってのは可能。 自分のままでいられて「あの人」のいいところを取り入れるだけのことだから。変わる必要もない。増える、広がる。そんな感じ。

変わりたいけど変われない、と思ってモヤモヤするよりも、実はずっとカンタンで心地いい。

在り方を裏打ちするものとは?

あり方が素敵な人、憧れる人。ああいう風に「ありたい」と思わせる人。 共通するのは、多面性、深み、幅。そういうもの。

あんな風にありたくない、という人を裏返せばすぐわかる。 薄っぺらい、深みがない、人として狭小、とか言われて嬉しい人はいない。どれもほめことばから程遠いし、言われたら相当凹む。ケチ、とか意地が悪い、とか言われる方がよっぽどマシ。

なら、その深みやら多面性、それに幅ってどうやったら身につくんだろう? 龍さんに聞いてみる。

昔は、緑と土と水が豊かで、人間たちの心も豊かで、暗闇がたくさんあって、オバケたちもあちこちに暮らしていたと思うよ。でも、今の世の中には自然がない。暗闇もない。人間たちは心を閉ざしてしまっている。オバケたちは追いやられているんだ。 ”不思議”は、すごそこにあった。人の手の届くところに。人のすぐ隣に。人と不思議は共存していたんだ。それが当たり前だった。人間たちが”合理性”、”便利性”を優先させるため一方的に切り捨ててしまったのは、目に見える自然だけじゃないんだな。 時とともに、変わらないものなどないよ。人の暮らしも、自然のあり方も、妖怪たちの存在も、幸せも豊かさも、変わってゆくものだから・・・・ 苦しみも哀しみも、物事のたった一面にしか過ぎない。ましてや君はまだ若いんだ。現実はつらいばかりじゃない。君さえその気になれば、可能性なんて無限にあるんだ。考え方一つで世界は変わるよ。君の常識があっという間に崩れたようにね。

物事の一面だけを見る。ある。あるある。 それしかない、それ以外ありえない、と視野も考えも狭くなる。見ようとしなければそこしか見えない。他にもあるかもしれないと思わなければ、”別の”見方はできない。思いこんでしまうと見えてこない、目に入っていても、認識できない。いつだったか大流行りした「絵の中にイルカが見えるか、抱き合う男女が見えるか」というあれのように。

そういう意味で想像力は多面性の母と言っていい。

深み、幅は、多面性の後についてくるはず。多面的なものの捉え方ができるようになる=他のことを受け入れることができる、とも言える。深みや幅、というのは違うものを受け入れることができなかったり、違いを違いとして認められないとその時点で多面性は認められない。

つまりは想像力があって、受け入れる力があればいい。

おや?これってば以外とカンタンじゃない?

変わる、より、広げる

今、目の前の現状がどうしても嫌な時、変わりたいと人は思う。 周りは変えられないけど自分は変えられる。 だから、自分が変われば、この現状を変えられるはず。 だから変わりたい、と。

だけどそう思えば思うほど、変わらない自分に苛立つこともある。 変わりたいのに変われない。 なんで?この自分は嫌なのに、変わりたい。のに。 変われない。いやだ、変われない自分。

そんなこと、ないのに。 昨日と同じ自分は今はいないのに。 昨日から何かしら、確実に、変わってるのに。

時とともに、変わらないものなどないよ。人の暮らしも、自然のあり方も、妖怪たちの存在も、幸せも豊かさも、変わってゆくものだから……

変わるより、広げる。そう思ったらもっと楽になれるよ。 だって、すでに変わっているのだから。 変わっている自分を受け入れる。 気づかなかったもの、知らないもの、異なるものを受け入れる。 受け入れた分だけ、私は、俺は、確実に大きくなっているのだから、広がっているのだから。